2011年9月6日火曜日

情報デザイン入門

かなり古い本ですが、読みました。

言い回しや名称が違うものもありますが、初版は2001年なのにUX、NUI、HCD、LATCH、IAやコンテクストについて等、まさに今学んでいたり興味がある内容が出てきます。また、事例がかなり多く載っていて少し時代を感じる部分もありますが、サラっと読めるので機会があれば目を通すのも良いかも知れません。

第1章 情報にまとまりをつける
本棚整理からウェブサイトの構築まで


モノ・コトの背景にある意味を捉える
例えば天気予報は、各種のデータに基づいて予報機関が立てている。もし伝えられるのが「むき出しの」気象データそのものだとしたら全国の気象がどう変化しつつあるか、自分の住む場所の天気がどうなるかなどを理解するのは無理。

内容(コンテンツ)と文脈(コンテクスト)
情報デザインとは身の回りにある膨大なデータを価値のある分かりやすい情報へと変換していくための作業。データは他のデータとの繋がり=関係を持つことによって情報へと生まれ変わる。
データはあるコンテクスト(文脈・状況)のなかに置かれることによって理解できる情報となる。
情報デザインはコンテクストを組み立てる作業であり、身の回りにあふれるデータ・コンテンツに「まとまり」をつけ、何らかの秩序=コンテクストを作り上げる行為はすべて情報デザインである。
情報デザインは「他社への伝達」や「共有」つまりはコミュニケーションの為に用いられることを前提としている。

5つしかない情報の組織化の方法
情報にまとまりをつける整理=組織化の方法にはたった5つの基準しか無い
【カテゴリー】
  • 商店やスーパーマーケットでの商品分類の仕方
  • 図書館の蔵書の並べ方
  • 会社組織での商品やサービス、業務内容による部署分け
【時間】
  • 歴史年表
  • テレビの番組表
  • 個人の手帳、スケジュール表、カレンダー
  • マンガ、物語、映画
  • 美術館や博物館の展示・ナビゲーション
【位置】
  • 地図
  • 建物の案内図
  • 物事の関係性(学問領域の広がりや人物の相関図等)
【アルファベット・50音】
  • 辞書、百科事典、電話帳
【連続量】
  • 各種グラフ
  • 新聞の記事の大きさ

情報やモノは必ずある基準によって何らかのコンテクストに織り上げられている。コンテクストがどんな基準で構成されているかを発見できればわかりにくいと感じていた情報を理解する手がかりが得られる。また、なぜその情報がわかりにくくなっているのかにも気づく。

電話帳を新しくデザインし直す
リチャード・ワーマンの情報デザインの一例「スマート・イエローページ」
それまでは電話帳といえば人名や職業分類をアルファベット順に組織化したものがほとんど。電話帳はある地域の膨大な情報が蓄積されたデータベースであるにも関わらず、情報を組織化する基準が画一的すぎる為に、その基準とは違う基準でアクセスすると使い勝手が悪かった。
ワーマンは2300以上あった職業分類をもっとざっくりとしたカテゴリーにまとめた。
ワーマンがこの仕事で行ったのは「コンテクストのデザイン」としての情報デザイン。

本棚づくりは情報デザインのレッスン
「カテゴリー」はいくらでも主観的に組み立てていくことが可能。「カテゴリー」による組織化には「落とし所」が存在する。ある人の主観で組織化されたカテゴリーが、他の人にとっても有益で受け入れられるということは、両者にとって何らかの共通理解が存在していなければならない。カテゴリーで区分けした情報を提示することは、その受け手との間に共通の土俵にたったコミュニケーションが成立することでもある。
例:往来堂書店では書棚の文脈を編集してある。本と本が織りなす内容やテーマ的な関係性を重視して棚の配列を考える。

本という情報の「かたまり」を空間的にレイアウトすることは、情報デザインにとって極めて重要なエクササイズになる。

情報は「かたまり」となって存在し、ひとつの情報の「かたまり」は他の「かたまり」とつながることを求めている。情報の「かたまり」同志の繋がりをどう組み立てるかが情報デザインの基礎。

ウェブデザインは「情報の建築」を建てること
ウェブページの「見た目」ではなくサイトの構造全体を考慮しながら、ユーザーにとっての使い勝手を高めるデザインをしていく上で欠かせないのが「情報アーキテクチャ」という方法論。情報アーキテクチャはウェブサイトを情報の「かたまり」でできた建築物のように組み立てていくアプローチ。

情報アーキテクチャの四要素
①情報の組織化
情報を組織化するには、情報の「組織体系」と「組織構造」のふたつを考慮する必要がある。情報の組織体系は、情報の中身をある共有特性を持った「かたまり」として整理する基準のこと。情報構造とは「かたまり」として整理された情報同志を互いに結びつけていく際の構造のこと。

②ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムはサイト内での迷子状態を防ぐための仕掛け。幾つかの方法の中からそのサイトに相応しいものを見極めて採用する。

③ラベリングシステム
情報の「かたまり」のなかにどんな中身が含まれているのかを示すための方法。あまりにユニークすぎるラベルをつけるとユーザーが理解できなくなるので、ユーザーの視点に立って誰にでも分かりやすいラベルをつけることは情報の組織化やナビゲーションの効果を左右する非常に重要な要素となる。

④検索システム
サイト内の検索システムを適切な形でデザインするためには、サイト全体における情報のブラウジング(拾い読み)の仕組みと検索システムの関係を密接なものとして捉え、検索システムを手助けする工夫やインターフェイスを作る必要がある。

サイトを訪れる人の「経験」をデザインする
ユーザビリティとはユーザーの視点や発想に立ってシステムやインターフェイスの開発や改良を進めていこうという考え方。

【ニールセンによる、ユーザビリティ評価のポイント】
  • 学習しやすさ
  • 効率性
  • 記憶しやすさ
  • エラーの少なさ
  • 主観的満足度の高さ
これらのポイントを達成するには「ユーザビリティテスト」を行うことが不可欠。

何かをデザインする場合、それを使う人の特性やその人が置かれた状況を理解していくことは、自分のデザインを他者の目からもう一度見つめ直し、「本当にデザインすべきことは一体なにか」をはっきりさせるために不可欠なこと。インタラクティブ(対話型)な情報メディアのデザインを行う場合には、自分が作る対象だけでなく、それを使うユーザーの「使う」という経験まで含めた「かたち」を頭に描いておくことが欠かせない。
「見えないデザイン」は山のようにリスト化出来る。そして「見えないもの」とは「経験」に他ならない。



第2章 見えない空間の地図を描く
速度の地図からネットの地図まで

速度が歪めた日本列島
杉浦康平氏の「時間軸変形地図」は情報デザインの最も優れた事例の一つとして数えられる。

情報デザインにとって地図という表示形態は最も重要。モノ・コト同士の「関係」を明らかにし、その関係をより分かりやすい「かたち」に変換する。

地形図では現実の地形に含まれている情報を取捨選択し、そのなかで使い手にとって価値のあると思われるものだけを「かたち」に表すという情報デザインが行われている。現実にある複雑な情報を思い切って抽象化することで、逆に重要な情報だけを浮かび上がらせることが、地図という表現のエッセンスである。

「大正の広重」が描いた情報地図
吉田初三郎の名所図絵の鳥瞰図は大胆なデフォルメが施されている。デフォルメは、現実の空間を歪めてしまうが、必要な情報は綿密に書き込まれ、現実には絶対に見えない形の表現でも奇妙なリアリティを感じさせる。

地図は現実の地形やその上に広がる人間の活動の舞台(都市や道路など)を「ありのまま」に描写するのではなく、そこには必ず「編集」という取捨選択が働いている。
私たちが何らかの活動の手がかりとして、そして世界というものを認識するために欠かせない情報だけを抽出し、それをわかりやすく視覚化することが地図という情報デザインの本質。

情報を伝える4種類の地図
①ロケーターマップ
あるモノ(建物など)がどんな場所に存在しているかを他のものとの関係の中で示す地図。
  • 観光マップ・オフィスなどの施設案内図
  • ロードマップ
  • ルートマップ
  • インセットマップ

②データマップ
統計上の事実、あるいは数値を表すための地図。
  • 中学高校で使う地図帳にあるようなデータを重ね合わせた地図等

③スケマティクスマップ
ある地点から別の地点にどのように行くかを簡略化してわかり易く表現した地図。
  • ロンドンの地下鉄路線図等

④シークエンスマップ
物事の展開や変化などのプロセスを時間と空間の広がりの中でチャート化して示した地図。

情報という目には見えないモノ・コトに「かたち」を与えるデザインの営みにとって、地図というツールは強力な武器。

第三章 時間で変化する情報をデザインする
スケジュール管理から地域のフィールドワークまで

情報をデザインする要素としての時間
情報の殆どは時間の経過と共に変化している
  • 時間軸変形地図
  • ナポレオンのモスクワ遠征地図

年表は時間ー情報のデザインでは最もポピュラーは表現方法だが、わかりづらいものが多い。

デザインとは何らかの「かたち」を見出す作業。
  • ゼロから作り出す
  • 既存のものになにか付け加える、作り変える
  • 眼に見えないところにあるモノ・コトを見えるように浮かび上がらせる、引き出す
これらによって優れたデザインが立ち上がることがある。

第四章 よりわかりやすく、使いやすく
道具とインターフェイスのデザイン

人と道具を「仲立ち」する部分
インターフェイス=2つのものの間の接点・境界であり、コンピュータ・情報機器のインターフェイスは人間とそれらが接する部分のこと。人と道具の仲立ちをする部分であり、ここで情報を分かりやすい形で示し、道具をより使いやすくすることが情報デザインにとって大きなテーマ。

あらゆる道具にインターフェイスがあり、インターフェイスの出来不出来は道具の使い勝手を左右する最も肝心な条件。ひとと道具の関係を改善する優れたインターフェイスを作ることは、これからの情報デザインにとって見逃すことのできないテーマ。

呪文からマウスへ、そして
パソコンの例)
コマンド→GUI(マウス、ウインドウ表示等)
GUIを構成する用を、WIMP(ウインドウ、アイコン、メニュー、ポインティングデバイス)はハードルが高い。コンピュータは多くの人に道具への習熟を求めすぎ、誰もが気軽に使える道具になっていない。インターフェイスに関する限りまだまだ未熟な段階と言える。GUIに変わる新しい情報のインターフェイスが求められている。

関わり合いをデザインすること
これからの情報を操る道具立て=インターフェイスのデザインは、画面の中にある仮想の世界を綺麗にわかりやすく作り込むだけでなく、人間が持つ全体的な経験そのものに深く入り込んでいく。人間を中心として人間を取り巻く道具や環境との「関わり合い」をデザインするという姿勢。情報のインターフェイスをめぐるデザインは、人間の生活環境全体のデザインと大きく関わっていくこととなる。

「万能デザインツール」としてのレゴ
レゴの凄さは、シンプルな原理の組み合わせによって非常に多様な物が作れることと、多様な組み合わせを可能にする前提の、徹底した規格化・標準化である。

レゴ・マインドストームの例)レゴに同じ規格に基づいたモーター・センサー・CPUを加えたもの。パソコンの専用アプリによってコマンドのアイコンを並べていくだけでプログラムを作るもの。マインドストームのプログラムは非常に優れた情報デザインの実践例。

使い手の欲求にきめ細かく対応するデザインの究極は、使い手が自ら欲しい物をデザインできる環境を提供すること。

第五章 環境と体をめぐる情報デザイン
生きている世界を実感するデザイン

生きている世界を感じる道具
人間が情報デザインの束・結束点である。しかし情報は人為的なものだけにとどまらず、物理的な世界が既に豊かな情報で成り立っている。
例)風鈴:風鈴が表現しているのは「風が吹いている」という事実

日本家屋はインターフェイス的建築の元祖
日本家屋を構成する部屋には、予め決められた機能や意味付けはなく、「文脈依存的」だった。日本家屋はPCのように目的や状況に応じて様々に機能を拡張できた。日本の伝統的な空間は、その空間自体で完結するのではなく、あちこちに情報のクリッカブルポイントがあり、人が自らのソフトウェアを働かせてそれらのポイントをクリックすることによって、外の環境や過去の文化的な資源へとアクセスしていけるような情報デザインが施されていた。
人に属するソフトウェアを重視する日本文化は、使い手である人の知識や経験によって機能が決定されていく道具のデザインにも反映されている。

この世界に情報は充満している
忘れてはならないのは、この物理的な世界そのものが最初から豊かな情報空間であるという「アフォーダンス」という考え方。環境の中にある全てのものは、動物に「与える情報」としての「アフォーダンス」を持っている。あらゆるものにはいくつものアフォーダンスが含まれているのであり、人はそうしたアフォーダンスを探り当てることによってそのモノの使い方を自らデザインしている。

アフォーダンスに満ちたデザインを
アフォーダンスの特徴がうまく使われていれば、何をしたらよいかはちょっと見ただけでわかる。絵やラベルや説明の文章も必要ない。

人は潜在的に物の使い方をデザインする力を身に付けている。したがって良いデザインを目指すなら、人が自ら持っている「使い方のデザイナー」としての側面を無視することはできない。本当に効果的なデザインを行うためには、デザイナーが、それが必要とされている場所に赴き、そこで活動している人と一緒に問題を探り当てるプロセスを踏む必要がある。

情報デザインとは、いきなり「かたち」を描くことから始まるのではなく、デザインを必要としている場所で活動している人の経験の実相をすくいあげることから出発するべき。

ユニバーサルデザインの出発点には私たちの感覚や体験の世界が極めて多様で複雑であるというアフォーダンスのような視点が前提となる。情報デザインは実体のあるそのもの自体を対象にしたデザインではないが、その前提にある「環境と身体の関わり合い」の問題を忘れてはならない。

第六章 社会に開かれていく情報デザイン
コミュニティをめぐる関係の情報デザイン

目に見えない関係を「かたち」にする
デザインとは、モノや空間などの表面的な「すがた」「かたち」を操作することではない。見えるものの背後にある「見えないもの=情報」をいかに捉えるか、ということからデザインの行為は始まる。
  • 情報は「かたまり」で存在する。
  • 「かたまり」同士の関係性を整理していく。
  • 整理された「かたまり」を誰の目にも分かりやすい「かたち」に表す。
情報デザインは全てのデザインに通じる共通のプラットフォームである。情報デザインが捉えるべき「見えないもの=情報」とは「関係性」に他ならない。

インターフェイスやアフォーダンス、センスウェアも大切。人間と情報にまつわる色々な関係性に光をあてることが、情報デザインの本質である。

私たちはユーザーではない
私たちは「道具のユーザー」ではなく、目的や経験を得るための手段として道具を使う。

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