2011年12月9日金曜日

サービスデザインとUX

11月20日、モンキーワークスさん主催の「サービスデザインとUX in Nagoya」に参加してきました。あるサイトの公開が間近でアウトプットが遅くなってしまいましたが、最近少し落ち着いたのでブログに書こうと思います。

ユーザーエクスペリエンスとは何か?(安藤昌也先生)

最初に千葉工業大学の安藤昌也先生による「ユーザーエクスペリエンスとは何か?」という講演を聞きました。具体的な事例(スライドには先生のお母さんまで登場!)を交えて教えて下さいましたが、とにかくわかりやすくて、楽しみながら学べました。

UXというと我々製作者はどうしてもインターフェイスの動きなどに目が行きがちですが、そうではなく、利用前から利用後、さらには利用時間全体を通して、その製品から得られる体験こそがUX。ユーザビリティなんかも混同して語られがちですが、UXはユーザー側の視点であり、ユーザビリティはモノの品質の話。

ユーザー体験は、ユーザーの心理的要因に左右されるそうで、その心理的要因は2つ有り、興味や知識の有無(製品関与)と操作することへの積極性と自信(利用自己効力感)。ユーザーの使う意欲をいかに高められるかが大切で、それが人が長く物を使う理由だということです。まず期待が先行しているユーザーが非常に大切で、そのユーザーの期待を裏切らない製品を作らないといけないということですね。さらに言うとユーザーが成長していくプロセスを提供しなければいけない。ユーザーは意欲を持って製品に触れ、背景によって評価し意欲を調整していく。その意欲の調整を助けてあげなければいけないということでした。このあたりは分かったような分からないような、とういう感じでこれからも学び続けていかなくてはいけません。

UXの観点をデザインに結びつけるためには、ユーザーが製品を利用した体験を通してどんな感情を抱くのか、体験の感情的評価をどこまで意識してデザインするかによるとのこと。ユーザーは、ユーザーである前に消費者であることがほとんどなので消費体験→利用体験を連続的にデザインしなければいけない。そのとき、いかに長く使い込んでいくことを考えてデザインするかを考えていこうということでした。

UXとUXDに関して。UXとは体験そのものこと、UXDはその体験が量産・最生産される仕組みを作ること。コアリズムというエクササイズのDVDがありますが、非常に良くできていると紹介頂きました。それは、エクササイズがゴールを設定するのではなく、ユーザーが設定したゴールに向かって楽しんで続けられることを意識した作りになっているとのことでした。画面の中に4人の人が並んで踊っているのですが、それぞれレベルが違うらしく、自分のレベルに合わせて投影できる所が印象に残りました。まさに段階に応じてユーザーの成長を促しているのだなと感心しました。

とにかく、UXDとは長期的なUXをデザインすることで、モノやコトのデザインではなく、もっと大きな視点の話なのだと感じました。ユーザーがその製品がもたらす様々なモノやコトに触れてどんな体験をするか、ユーザーにどんな体験をして欲しいか。その製品を欲しいと思ったときから使った後に他の人に話すところまでを想定する。使った人にどうなって欲しいかを考えることを習慣にしていきたいですね。

あと、UXDの知識は特にリーダー的な役割の人に必要な知識であるということでしたが、制作に関わる全員が持っていればそれだけ良い体験を与えられる可能性は高まると思いますので、学んだことを少しずつでも普段仕事をしているチームで共有していきたいと思いました。


サービスデザイン設計法(浅野智先生)

「HCDの理解」のセミナーで教えていただいている浅野先生の講演はサービスデザインについてのものでした。事前にサービスデザインと聞いてなんとなく「根っこ」の部分の話だろうな、と想像していたのですが、やはりとても為になる大切なお話でした。

まず冒頭にオランダ・フィリップス社の「橋をデザインするのではなく、川を渡るシステムを作れ」という言葉を紹介して頂きました(実際に見た人はいないというお話も!)。
僕達はやはり製作者なのでWEBなどのモノから考えてしまいがちですが、ユーザーの目的はモノを使うことではないということです。新幹線の券売機を便利に使いやすくするのではなく、早く快適に移動できる手段を提供してあげることが大切で、その手段として新幹線やスイカなどが用いられるということです。これは最近会社の会議でも話していることですが、どうもメディアありきのセールスになっているようで、そこの意識を変えるのには相当苦労してます。とにかく、全てのモノはコトを成す為の手段で、そのコトはUXの為のものだということです。

また、実は楽に快適に目的が実行されればそれでよいかというと、最近はそうでもないことが分かってきたということでした。それは難しいことを達成することもUXの一つだということです。ゲームや楽器なんかもそうですよね。難しいテクニックを使いこなせるようになるためには、うまくいかなくてイライラしたりもします。昔、それなりにゲームをやっていた頃は「いらいらするならやめればいいじゃん」と何度言われたことか。。。でもそのネガティブな気持も、克服した時や達成したときの気持ちまで含めてUXなんですね。また、ただ単にボケッとしたいことなどもUXであると。

とにかく、僕らがやっている仕事上の様々なことというのはすべてUXに向かっているということ。その中でもHCDの手法は、国際規格であり、最も言語化されていて、新しい手法も次々に取り込んでいるので、これを見ていればだいたい網羅できるんじゃないかということでした。

そしてお話はモバイルファーストについて。アジアやアフリカではPCを持たずにスマートフォンの時代になるとのこと。
モバイルファーストの概念は、
サイトの開発をモバイル端末向けから始める
画面サイズや接続スピードなどの制約が多い
よりフォーカスしたコンテンツ作り(目的志向)
利用の文脈に応じて使えるように情報を作る
「なんでもできる」から「やりたいことをすぐできる」へ

たしかに、スマートフォンを利用するときは、やりたいことがすでにあって、それを実現するために個別のアプリを使う傾向にあります。またブラウザを使ってちょっとした事を調べるのにもPCサイトをスマートフォンで利用すると、情報を探し出すのに非常に苦労したりもします。ネットにつないで情報を得るという行動がどんどん外に出ていき、しかも短く頻繁になっている気もします。そんなときに情報を探し出しにくいとUXが良くないものになってしまうのかなと。

HCDのセミナーの時に教えていただいて、ココロに残っていることの一つに、「ユーザーの欲求は変わらない。変わるのはデバイスだけ」というものがありますが、今回も言及されていました。まさしくそのとおりだと思いますし、要は本質的なところを抑えておかないとデバイスや技術に振り回されてしまうということなのでしょう。

音声認識についても触れられ、目の見えない人のためにやることが字の読めない人のためにもなるということにつながるんだと言われ、ここでもハッとさせられました。以前CAのキャリーバッグについて教えていただいたことと同じですね。結局誰かのために徹底的に取り組んだことが他の人のためにもなるということでした。

最後に、とにかくユーザーの経験をデザインすることが重要で、それにはユーザーの事を知らなくてはいけない、それをよく考えること。それが積もっていくんだよ、と教えて頂きました。とにかく実践することも大切だ、とも。



ワークショップ|最悪の旅

講演のあと、数チームに分かれてワークショップに。今回はNHKのスタンフォード白熱教室でも行われたという「最悪の旅」をテーマにしたものを実践することに。このワークショップは相当面白かったですね。慣れていないこともあって最初はぎこちないのですが、後半はアイディアがスムーズに出るようになって、それもまた良い経験を得られました。

まず、起こりうる最も最悪な旅を考えることから始めました。
だいたい彼女と別れるとかそういう感じになるのですが、チームによってはライオンに食べられるとか、霊が出るとか。。。ここで感じたのが、やはりどうしても常識の範囲に収めてしまうということです。それとアイディアを出すことを楽しめてない。少し遠慮してしまって、面白い事を言ってやろうという空気を作れませんでした。初対面の人もいますし、難しい所もありますが、それでもそういう空気を作れるような人間になりたいと思いました。

最悪の旅を考えてまとめ、チームごとに発表します。

次にその最悪の旅のプランを隣のチームに渡し、最高の旅に変えるアイディアを出し合います。この頃になるとチームのメンバーも少しずつ慣れてきて、積極的に発言していました。最後には良いアイディアも出せ、自分たちは満足できたと思っています。

また、他のチームの発表を見ていて本当に感心することが多く、そこも含めてとても刺激になりました。

まとめ

今回のセミナー&ワークショップでは、HCDより突っ込んだ、もっと根本的なところに触れられたと思います。
仕事をしていく上で最も重要なところは誰かの生活をハッピーにすることだと思いますが、どうしても製作者はモノに目を向けがちです。WEBだったり印刷物だったり、プロダクトだったり。しかしそれらのものは、何かを成すための手段でしか無いということを常に意識し、習慣化することが大切だということを再確認できました。お客さんが何に不自由を感じていて(場合によっては気づいていないことも多い?)それをどうやったら解決できて、その解決する過程で僕らに何が出来るのか。その根本的なところを考え続けずモノからの発想になってしまうと、時代が変化したときに選ばれなくなってしまうという危機感を持って仕事に取り組んでいきたいと思います。