2012年6月26日火曜日

次世代コミュニケーションプランニング


何人かの人が良いと言っていたので、読みました。

最終的には「コンテクスト」を理解し、そのなかに埋め込むにはどういったコミュニケーションの方法があるかを考えましょう、といった内容に落としこんでいます。その中で使う「メディア」に対する考え方や「クチコミ」「ソーシャル・ネットワーク」を使うには、といったことが書いてあります。

消費者をよく見る。彼らはどういったコンテクストの中で生活しているのかを理解する。その上でその商品がもっとも機能する場面を考え、演出し、それをストーリーにする。ということを俯瞰して捉え、全体像を描ける。コミュニケーションプランナーとは、そういった人材ではないでしょうか。

とかく最近はコンテクストの重要性がいたるところで言われています。これはどんな事を企画するときにも必要なな考え方だと思います。

  • 対象となる人や組織のことをしっかりと理解し、適した形で商品やサービスを企画する。
  • どのように利用するかを、その利用前後や累積的な経験まで含めて考える。
  • その中で広告の果たす役割がどこにあるのかを考えて最適な広告手法を検討し、クリエイティブを作り出す。
  • 利用後の消費者の気持ちも考え、その商品やサービスのことをどう捉えるか、どのような感情を抱くのか、その結果として商品やサービスの評判をよく出来るように設計する。

合わせて考えたいのが、コンテクストは対象となる人や組織にだけあるのではなくて、社会の状況や商品ジャンル、ブランドや商品そのものにもコンテクストは存在するので、これらのコンテクストを組み合わせて企画することが必要となってきます。

こう考えると、これを出来る人ってものすごく有能な人ですね。今の僕なんかにはとてもじゃないけど難しい。だけど、ここを考えて行かないと僕が所属しているようないわゆる「コモディティ」な業態をとっている中小零細は価格競争に陥り、先細りしていきますね。実際価格面を評価されてお仕事を頂くことも多いです。

で、思うのは何も自社内ですべてを賄う必要なんて無くて、足りないピースは外に求めれば良いのではないでしょうか。

先日もある方からお誘いを受けてあるプロジェクトに参加しました。そこではそのプロジェクトを提案するに至るまでを担当したプランナー(もちろん企画にも参加)、企画とクリエイティブに指示を出すディレクター、そして主にビジュアル面で手を動かす役割を担った僕(僕に求められたのは突貫力と割と自由のきく立場。)この3人で提案までしてきました。残念ながら結果は失注となってしまい、僕らの短い期間のプロジェクトがその後も続くことは無かったのですが、ひとつの形として非常に面白かったです。

こうしたことは僕の周りではまだそれほど行われていないのですが、広告の企画というものが非常に広い範囲で設計しなければいけなくなっている昨今、超絶有能な人材がいない場合は持っているスキルを活かして複数人がプロジェクト毎に集まり、終わったら解散するといった仕事の仕方も有りなのではないかと思っています。これがフリーランス同士ではなく企業同士でできれば面白くなるだろうな、という感想を持ちました。

さて、大きく脱線しましたが話を本に戻します。このエントリーに頻出する「コンテクスト」というのは「文脈」と訳されます。文脈とは、そのモノやコトが持っている背景を理解していないと通じないような内容のことです。例えば、


「これが、悪い「は」ですか?」


という文があったとします。この「は」は「葉」なのか「刃」なのか「歯」なのか分かりませんが、前後に文章があれば例えそれがひらがなで書かれていたとしても理解できます。


「はい、今この木から摘み取りました。
「これが、悪い「は」です?」
「そうです。これが悪い「は」です。」

前後の文章があると、「木から摘み取りました」ということばから「は」が「葉」であることが想像できます。


この「コンテクスト」の理解なしに、広告の対象となる消費者を定めたり、定めた対象に響く広告を企画することはできないと言われています。従来のコンテクストを理解し、新しいコンテクストをプランニングする。これこそがコミュニケーションを生み出す「もと」となってくるのではないでしょうか。

こういった「もと」の段階を経て「ストーリー」や「シナリオ」を設計し、それに合わせた広告を企画する。こういう事をやらないと「狙って広告を成功させる」ことが難しいように感じます。

また、本では広告は認知だけを担っているのではなく、購入後や使用後に良い印象を与えるためにも役立つことが出来ると説いています。先述した「利用前後や累積的な経験まで含めて設計する」ことが重要になっているということですよね。さらに「コミュニケーションのプランニングは必ずしもAttentionから始まるものではない。」とも書いています。

最後に、自分メモ用も兼ねて、本に書いてある「コンテクストプランナー」と「コミュニケーションプランナー」にどんな職能が必要かを列挙してまとめとしたいと思います。

  • その企業・ブランド・商品を取り巻くコンテクストはどう構成されているか
  • その商品が売れる理由をどう考えるか
  • その商品(やカテゴリー)に関する現在のパーセプションはどうなっているか。そこに解決すべき課題はあるか。
  • その企業・商品が過去に培ってきたコミュニケーション上の資産は何か
  • ターゲットとする消費者層のメディア状況はどうなっているか。必要であればどのようなメディア/広告枠を開発すべきか
  • その商品が最も「機能する」場所・シーンをどのように考え、演出できるか
  • PR上・広告上のメッセージ発信のルール/ストーリーをどのように作るか
  • それらの全体構造をどのように描くか
  • それらを実現するためのスタッフを外部・内部含めて集めてこられるか

以上のことを考え、実行する職能が必要となってくる


2012年6月4日月曜日

ゲームにすればうまくいく―<ゲーミフィケーション>9つのフレームワーク


読みました。

はじめに「ゲームにすればうまくいく」は「ゲームをつくればうまくいく」と混同してはいけないということが書いてあります。ゲーミフィケーションは、ゲームにすることではなくゲームの要素を様々なことに落としこむことで、単純にゲームをつくるのとは違うということをしっかりと認識しておきたいです。

このゲーミフィケーション、最近よく聞く言葉でありバズワード的な感じもしますが、僕自身丁度仕事に取り入れなければいけない案件が発生していたので、急いで購入して読んだという感じです。読み進めるうちに思っていたのが、これもすべて「UX」にまつわるお話で、よいUXを提供するためにゲームの要素を取り入れるということですね。利用前後、利用中、そして累積的なUXも意識しなければならないことに気が付き「この本、読むのは簡単だけど、実際やるとなると難しい」というのが率直な感想です。

さて、この本ではゲーミフィケーションを9つのフレームワークにわけて、一つづつ考察してありますので、各章ごとに感想をまとめていきます。

レベル0|なんのためにゲームにするのか
実際にゲームの要素が取り入れられている事例の代表的なものに、ポイントカードがあります。「来てくれる毎にスタンプ等を押して、ポイントが溜まってゆくのを視覚的に感じながら次回の来店につなげる」というものですね。ただ、この方法はすでに世の中に溢れているがためにゲーム感が少なく、効果の程は微妙だと思います。参加者に提供される価値が大きければ良いのでしょうが、だいたい費やした費用の5%くらいの価値還元でしょうか。しかしちょっとした工夫を取り入れることでそのゲーム要素を増幅し、顧客のロイヤリティを高めることが可能となる、ということです。
工夫の例としては

  • 何度もやってしまうように
  • 短時間で理解できるように
  • なんとなくやりたくなる

などがあります。
顧客のロイヤリティが高まるということは、長期にわたって顧客が自社のビジネスに関わってくれるということであり、それはLTVを大きくすることに極めて重要な意味を持ちます。



レベル1|なぜ「計るだけダイエット」で痩せるのか
Keyword:可視化・目標

数多あるダイエット法の中からNHKの番組で紹介された「計るだけダイエット」を挙げ、ゲーミフィケーションの視点から考察していきます。
なぜ「計るだけ」で痩せられるのか。これには2つのゲーム要素があり、それは
・日々の体重データの数値による「記録」
・データをグラフで表す「可視化」
のふたつ。
この2つのうちの「可視化」がゲームにおいては重要で、古くはコンピューターゲームの「点数(SCORE)」がそれです。

この数値化し可視化するときに大切なのが、「なにを可視化するか」で、参加した人が面白さを実感できるようなものを可視化します。そして、可視化するということは「フィードバックを返す」ということでもあり、それが参加者の行動を変えてしまうようなものにしなくてはいけません。



レベル2|なぜ高機能な電子レンジはつかいにくいのか
Keyword:オンボーディング

ここでは、高機能な電子レンジを著者がまったく使えないという事例から展開させていきます。たしかに、(特に日本の製品は)技術の進歩とともに身の回りにある様々な機器の高機能化が進んでいますね。高機能になることは大歓迎なのですが、それによってわかりにくくなり使う意欲が減衰しているのであれば、本末転倒そのものです。そこでオンボーディングの出番となります。

オンボーディングとは、導入部分のわかりやすさに関わる部分のことで、ゲーミフィケーションの視点で見た場合には「はじめての参加者に、どれだけ簡単に面白さを体感してもらえるか」に対する手法です。
サービスを知ってもらう場合には、まず興味を持ってもらい、次に実際に参加してもらい、結果として価値を感じてもらわなくてはいけません。ここの初動の部分をいかに短く簡潔に伝えるかということですね。

サービスへの参加者は非常に忙しいので、特に無料で始められるようなものに関しては最初の5分で継続するかどうかの判断を下すとのこと。そこまでに興味を持ってもらわなければ、継続検討の対象から外されてしまいます。



レベル3|なぜハーレーは縮小する市場で新車販売台数を増やし続けられるのか
Keyword:ソーシャル、世界観

この章では、ハーレーダビッドソンやディズニーランド等の事例を挙げながら、世界観とソーシャルについて考察していきます。ソーシャルとはいわゆる「SNS」ではなく、もう少し広義な意味での「人間同士の相互作用」と定義されています。

ハーレーとディズニーランド、どちらも他にはない独自の世界観を構築しています。これが最大の魅力になっているのは間違いないです。その世界観は全てのものに徹底的に反映されています。世界観とはいわば「ストーリー」にも通ずるものがあり、そのストーリーもいま非常に興味のある分野です。ここは他の書籍等でしっかり学んでいきたいですね。

さらに、サービスへの参加者が、そのサービスの世界観に共感した後はソーシャルで参加者の交流を促進し盛り上げていくことも大切です。ハーレーであれば、H.O.G(ハーレーオーナーズグループ)があり、そこには様々な催しや施策を実行して参加者同士の交流などを活発にする仕組みが組み込まれています。これはWEBをハブとしていますが、リアルの行動が主軸となっています。



レベル4|なぜセブンイレブンは真冬の2月に冷やし中華を売るのか
Keyword:チューニング、上級者向け

ここでは、セブンイレブンが2月に冷やし中華を置くことになる事例を中心に、参加者を理解してサービスのチューニングをしていくことの大切さについて書かれています。参加者と長く付き合っていくためには、長く参加してもらえるようなサービスを提供しなければいけません。しかし、サービス開始時にはそのサービス自体が多くの仮設で成り立っているので、実際の参加者の行動から要望を読み取り、適切に提供するサービスに落としこんでゆかなくてはなりません。参加者をの行動から要望を読み取ることは、参加者をよく見ると言うことにほかならないと思います。参加者にアンケートを取ったところで、本当の要望など見えてこないですね。それはアップルと日本の電機メーカーを比べれば分かることですが、顧客は目にしたことがないものを要求することはないということです。

参加者をよく見るには時間をかけてじっくり観察することが有効だと思いますが、WEB系のサービスであればデータが豊富に取得できるので、より容易にチューニングを行なっていけるのではないでしょうか。

次に、上級者向けの施策について言及していきます。上級者=よりロイヤリティの高い優良顧客と捉えることが出来、彼らはLTVの高さもさることながら口コミ効果を最も期待できるということが重要です。ですので、上級者向けの飽きさせない工夫をサービスに含めていくことが大切となってきます。



レベル5|なぜAKB48のじゃんけん大会はただの「じゃんけん」なのに盛り上がるのか
Keyword:ゴール

参加者が、サービスに継続して参加することによって得られる「価値」を提供することが、最も重要な項目となります。参加者は得られる価値がなければ参加すらしてくれません。たとえ参加してもすぐに「離脱」してしまいます。参加者の期待する価値をしっかりと理解し提供することこそが、サービスを提供する意味となりえるので「このサービス通じて、誰にどんな価値を提供するのか」から企画をスタートさせることが重要。しかし往々にして提供したいサービス主導で企画が進むことが多いです。それは技術的シーズが先に立つことと同じで、ついつい「誰々に○○を伝えたい」という企業側の都合でサービスを企画してしまうからですね。

「このサービスを利用して、何がしたいんだっけ」と思わせないようにしないと、継続して参加してくれることは無いということです。

僕の今進めている企画も油断するとどうしてもそちら側に流れてしまいます。気をつけたいと思います。



レベル6|ゲーミフィケーションは「おもてなし」を表現するテクノロジーになる
Keyword:おもてなし

ゲーミフィケーションとは、おもてなしを表現するための手法であり、それが行い易いというだけのもの。参加者との長期的な関係を前提とし、よく観察・理解し、最適なサービスを通じて求める価値を提供し続けることで、参加者のロイヤリティが高まり、結果としてLTVが高く口コミの影響力を強く持つ優良顧客になってくれるということです。

今の時代は、企業の側からの一方的なコミュニケーションは求められていないことが多く、相互に影響しながらよりよい関係を構築していく時代で、それをゲーミフィケーション可能にできるとして、締めくくっています。



まとめ
ゲーミフィケーションについては、興味を持ちだしてから企画に落としていくまでの情報収集で「単なるゲームをつくることではない」ということは理解していました。

結局顧客を理解することから始まる一連の流れにおいて、やはり大切なのは「誰にどんな価値を」ということがスタート地点にならないと、サービスの存在価値がなくなってしまうということですよね。はたしてそのサービスは誰のためのものなのかということをしっかり初動の段階で整理し、できればユーザ調査を実施してペルソナ・シナリオ作成をしたほうがよりブレのない方向に進んでいくことを再認識しました。さらにUXマップを使えるスキルが身につけられれば、自分の仕事も格段に精度が上がるのでしょう。

そして今回もHCD関連で触れた知識が結びつきました。今度ワークショップが行われる「ストーリーテリング」についても出てきましたので、しっかり身に着けていきたいと思います。